「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし

時を経て、趣のある家 03

白鳥邸 :自分を癒せる空間を

「家を建てるのは、おそらく中年期がベストだなと。人生の指針がきちんと定まってからにしようと思っていました。ですが土地は出会い。そのとき、ここ鎌倉山に出会いがなければないで、自分のいるべき土地ではないのだろうとも考えていました」

 そう語るのは、現在「技拓」の代表取締役を務める白鳥ゆり子さん。

 「仕事もなんでも『与えられたものをどう生かすか』ということに興味があるみたいで、家の中も、母や祖母から譲り受けたものがほとんど。年代やテイストがバラバラなのでインテリアに統一感はありませんが、自分が好きならそれでいいかなって。家は日常なので、“映え”を意識するより、自分が弱っているときにこそ自分を癒してくれる空間であってほしいと思っています」

 たとえば、家のどこからでも庭が見えること、たまに読み返したくなる本を置いておける本棚があること。いっしょに暮らしている、ねこや犬がのびのび過ごせること。そういったことが、ゆり子さんが思い描く癒しの形。幼いころによく訪れていた幼なじみの家には、その心地よさのヒントがたくさん詰まっていた。

 「L字型の平家で、白樺のある中庭にはうさぎが放たれていて。まるで『ピーターラビット』の世界のようでした。子どもながらに、暮らしを謳歌するために建てられたその家にとても影響を受けて、自分が家を建てるなら、絶対、中庭のある平屋のL字型と決めていたんです」

 念願が叶い、この家で過ごす2回めの春。庭には土を育てるために蒔いたシロツメ草が群生し、大好きなアオダモも芽吹き始めた。どこからか「こっちの水は甘いぞ」と聞きつけて庭に毎日やってくる、小鳥や野生の動物たちを観察するのがなによりの楽しみだ。

(2018.9竣工)

撮影:清永 洋
取材:多田千里