「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし

時を経て、趣のある家 05

中村邸 :中庭を囲み、寄り添うように

「『ああ、いい家ね』。そんなセリフを、家内の口からいまもよく耳にするんです」
たとえば、木漏れ日がつくる影が壁に映し出されるとき、リビングの天窓を通る月が見えたとき、雨に濡れた中庭の大谷石が淡いグリーンに変化して絵画のように美しかったとき。そんななにげない瞬間に喜びを感じながら、中村さん夫妻は、この家で15年の月日を重ねてきた。

 なかでもふたりがいちばん好きなのが、木々の芽吹きから新緑にかけての季節。「春から夏には、ハナミズキやバラ、紫陽花などが次々と咲き誇り、木々や下草の緑もみずみずしく成長していきます。木々の間を抜けて入ってくる風が心地よく、そんなときにもまた、『いい家だな』って思うんです」と奥さまは微笑む。

 海岸まで歩いて10分ほど、潮風が香る茅ヶ崎の住宅街にふたりの家はあり、寄り添うように双子の息子さん、それぞれの家が建っている。その3棟すべてが、ウェスタン・レッドシダー(米杉)をまとった技拓の家だ。
 この場所には、かつて奥さまの実家があり、中村さん夫妻は結婚してほどなく隣に新居を構え、その後、ふたりの息子を育んだ。15年前に建て替えを決意したのは、実家を受け継いだのがきっかけ。幸いにも土地は3棟の家を建築するのに十分な広さがあり、息子さんたちと同じ敷地で暮らすこととなった。

「3世帯みんなで住宅展示場や建築会社などを見学して巡るなかで、示し合わせたわけではなく、自然と全員が選んだのが技拓の家だったんです」とご主人。その理由についてみなさんにたずねると、「海や川などの自然が近く、別荘地としての歴史もある茅ヶ崎の街にしっくりと馴染むのが、米杉を使った技拓の家だった」と口をそろえる。

 より街に溶け込むよう、まわりをブロック塀などで遮へいせず、シンボルツリーのムサシノケヤキを中心に、エゴノキやもみの木などの植栽をふんだんに配置して、外からの視線が直接届かないように工夫した。3棟の真ん中には、3世帯をゆるやかにつなぐ中庭も設けた。

 夕方、その中庭をトントントンと走って、お孫さんたちが「宿題を教えて!」とやって来た。週末には中庭でお茶を飲んだり、家族の誕生日には3世帯みんなでテーブルを囲んでお祝いしたり、お正月には親戚がここに集ったり、そのたびに奥さまは料理やケーキに腕を振るう。

 並んで建つ3棟の家はだんだんと味わいを増し、外壁も深い色合いに変化していく。ほどよい距離感で寄り添って暮らす、家族の喜びに満ちた日々とともに。

(2006.12竣工)


写真:上原朋也
取材:杉山正博