「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし
時を経て、趣のある家 06
森島邸:暮らしを育み、家を育てる
都心から西へ、電車に揺られ1時間ちょっと。駅から徒歩20分のところに、森島さんの家はある。小さな森を背景にした、喧噪とはまったく縁遠い場所だ。
「玄関を開けて真正面の階段を見上げると、窓の向こうに緑が見えるんです」と奈緒さん。
自然に近いロケーションにこだわって土地を探し、この町に移り住み、40カ所以上見て歩き、この場所にたどり着いた。玄関を開け、家の中に入ると、そこは外と内がまるで緑でつながれているような空間。吹き抜けの階段や窓が効果的に配され、室内のそこかしこにグリーンがある。一輪挿しに生けられた花をはじめ、2階のリビング・ダイニング、べランダの前は園芸店と見間違うほど観葉植物にあふれている。
「植物は前から好きでしたけど、これだけの数を育てたり、ガーデニングを始めたりしたのは、この家を建ててから。今まで手をつけなかったことを、ついやりたくなってしまうんです」
植物の手入れ、心地よい家具や道具選び、常備菜づくり、梅仕事……、自然と体が動く。
「実はここに住み始めて1年、2年めは、男の子2人の子育てに必死で、目先のことをこなすのに精一杯でした。でも、あるとき、そんな間にも家や自分たちの暮らしが少しずつ変化していることに気づいたんです。あたりまえのように季節が巡り、植物が育つように——。最近になってようやく、“自分たちの家”だと胸を張って言えるようになりました」
手をかけてあげれば、家はきちんと応えてくれる、という。
「家族のよりどころとして、お互いにいい関係を築きながら住んでいきたいですね」
休日になると、夫の彰紀さんや子どもたちはリビングに集う。奈緒さんはキッチンで、家族の気配を感じながら家事をして過ごす。
長男の琥太郎くんに家についてたずねると、「ここは宝箱!」だと答えてくれた。
(2012.11竣工)
撮影/松村隆史
取材/中野和香奈