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『住む人』第1号より「住まいの記憶と暮らしの単位」
昨今、住宅事情や家族の単位の変化、土地や建材高騰などの要因が重なり、手間暇のかかる注文住宅を建てるよりも手頃な建売や賃貸、中古リノベーション、大型の集合マンションを選ぶ人が増えている。では、自ら考えて建てた家と向き合う暮らし方の魅力はどこにあるのだろうか。
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「部屋」という言葉がある。住まいを構成する最小単位だ。一人暮らしから、パートナーとの同居を考え始めた頃、部屋と部屋が組み合わさって家になるのだと気づいた。育ちも個性も異なる二人が一つ屋根の下で暮らすことで、家という一つの大きな単位が見えてきた。そしてそれは、考えや意思の異なる人同士が暮らすのだから、十人十色の単位を見つけることで日々を豊かに味わい深いものへと変えてゆくことができる。
私たちは、長い人生の中で様々な出会いを体験する。ある時はパートナーが加わり、子供や犬猫などが加わり、成長の先には独立や別れも訪れる。そうして暮らしを変えていくことが、私たち人間の人生そのものだ。もちろん、その度に引っ越すのも楽しみ方であるけれど、暮らしの単位や形の変化を見据えて建てた家で、長い目で人生を楽しむことだってできる。
始まりは古くて安いアパート。けれども、常に理想の暮らしを想像しながら日常を考える癖を持った人は自分だけの家を持つ時、きっと変化を見込んで育てるよに永く住む喜びや楽しさを見つけられるはずだ。暮らしは終わりのない旅のように延々と続いてゆく。実生活は悲喜交交、雑誌に登場する日々のようには暮らせない。趣味や生活リズムの違い、ささいなことすら思い通りにいかない葛藤もある。泣いたり笑ったり、折り合いをつけていく過程が物語となって家の佇まいや暮らしの節々に住む人の人柄を表れるようになる。
それは自分で建てた家に住み続けるからこそ感じ得る喜びの一つかもしれない。いつだって一緒に日々を積み重ね、家と人が歩調を合わせ、共に旅をしていく。それは画一的なデザインの建売や、賃貸物件にはない魅力として、住まいを通じて様々な形で暮らしや人生を考えるきっかけを与えてくれる。いつの日か、自分だけの単位を形にした家を持つことは、ずっと膨らましておきたい夢の一つだ。
(住む人 Vol.01 2016年発行より一部抜粋・再編集・未掲載写真を含む)
編集後記
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この記事を書いた頃、技拓のスタッフも子供が育ち上がって家族の構成人数が変わったり、家と暮らしのあり方を見直すタイミングが重なっていた。「今の家を誰か大切に住んでくれる方に受け継いでもらい、自分たちは小さな家を建てようか。」という会話もあった。ここで書かれている一つの家に住むというのは、一生を指すものではない。けれども、30年くらいは数えている。自分が建てて大切に住んでいた家が、自分じゃないだれかにとってもそのまま大切なものになり得るなら、家を建てては壊す現代のあり方を見直せる。その為にも、必要以上に小さな部屋を増やすより、ゆったりとした空間を作りたい。そんな言葉を、みんなで交わしたことを今も鮮明に覚えている。