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『住む人』第1号より「シンプルを住み継ぐ。」

「住み継ぐ」とは、あまり聞き慣れない言葉。けれども、暮らしの道具や衣服などの様々な物を直し受け継ぎ使い続けてきたわたしたち日本人にとって、「受け継ぐ」ことや、時を経た物が持つ魅力そのものは、身近なものと言えるだろう。では、家はどうだろうか。

家族が家を受け継ぐ、あるいはセカンド・サードオーナーのような別の誰かの手に渡るにしても、意志を持って建てた家が住み継がれ、家主の暮らしを支える大木のように育ったら、どんなに有機的だろう。「100年3世代が住み継ぐ家づくり」とそ行事から掲げる技拓では、これまでもスクラップアンドビルドをよしとせず、家は継承可能なものと考えてきた。受け継げる物は、服でも道具でも決まってシンプルなつくりであることが好ましい。流行り廃りのないスタイルこそ、長い年月を使い続けるために欠かせない秘訣だ。

例えば、現代的な設備を盛り込んだスマートハウスは、画期的な先進的であるが科学や技術の目覚ましい進歩によって 数年後には時代遅れになり得る。そして設備の維持費も問題に。または、お洒落なエイジング加工を施した家は流行が変わっただけで陳腐で古びたものになってしまう。良い家は、そうした特別な設備や装飾ではなく、シンプルだけれど多様なライフスタイルに適応できる間取りや空間の構成、そして箱としての質の良さに裏打ちされるのではないだろうか。

マンションのような横広がりの空間ではなく、縦横に広く吹き抜け、体いっぱいに風を感じる。そんな爽やかな心地よさを求めて、部屋数を増やして仕切りだらけの窮屈な空間は避け、家族の共用スペースや白い壁など、日々の生活に余白を感じられるスペースを随所に残すことが、長く住むために大切なポイントになる。縦横に、どれだけ伸び伸びと空間を使うか考え抜くことが、家と人、人と人が繋がりを深めていく一助になるはずだ。

戸建てはメンテナンスが面倒という声も耳にする。けれども、人も長生きするためには体をケアし病気を治すのだから、雨風に晒される家もある程度のメンテナンスは欠かせないのも当然。手入れの過程で後からウッドデッキや植栽を加えたり、人生の歩調と合わせて家を好みの姿に仕上げていく。そんな楽しみを思い浮かべ、将来を見据えることで、家と長く付き合う喜びを見つけられるのではないだろうか。

住む人は日々変化するのだから、家も様子や姿を少しづつ変え、窮屈で退屈な暮らしにならないよう、心がけたい。そうして暮らしと丁寧に向き合い余白を残そうと考えた住まいは、老若男女といった世代やライフスタイルの垣根を超えて、どんな暮らしやその変化をも支え続けることができるはず。

日本では少ないものの、欧米では馴染みのある住み継ぐというスタイル。それは共用空間をベースにした住まいを建てる習慣と、人が知恵と工夫を凝らして暮らす習慣によって、成り立っている。いつの日か、日本で住み継ぐことのできる家が増えたなら、新しい家を建てることが叶わなかった人も、セカンド・サードと住み継いで自分らしく暮らせる家を手にする日が訪れるかもしれない。

だからこそ、技拓は今日もシンプルな家を建て続けている。

(住む人 Vol.01 2016年発行より一部抜粋・再編集・未掲載写真を含む)

編集後記
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技拓は昨年、創業50年を迎えました。約10年前に書かれたこの記事には、いま現在の技拓においても変わることのない家づくりへの思いと価値観が記されていました。家は、木や多くの資材を作って建てられるもの。そして、土地に根差し街並みを構成する重要な要素になり得るもの。だからこそ、家のなかでおこる暮らしの変化、待ち受ける「住み継ぐ」時を見据え、普遍的でシンプルな家づくりを大切にしたい。そんな私たちの想いが、皆様にも伝わることを願っています。