「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし

時を経て、趣のある家 01

平林邸 : 緑に囲まれた、三角屋根の家

「小さい頃から、図書館に住みたいと思ってたんです」その直子さんの言葉どおり、平林さん宅の1階、リビング・ダイニングの壁一面を埋めつくす大きな本棚には、絵本や小説がジャンルに分けて大事に並べられている。本棚の前のソファーが知己さんの定位置で、休みの日は心地よすぎて寝転び、一日中読書にふけることも少なくない。

 完成して、今年で10年。直子さんの大好きな絵本『赤毛のアン』に登場する「三角屋根の家」に住む夢を叶えるため、自然豊かで緑に囲まれて暮らせる土地を探し、見つけたのがこの場所だった。竣工までの半年間で、あっという間に見渡すかぎり草が生い茂ったため、2人の家づくりは庭の草刈りから始まった。「その姿を見て、ご近所さんが声をかけてくれて。引っ越す前からもう交流が始まってね」とうれしそうに話す直子さん。工事の状況をご近所から聞くこともしばしばあった。

 身のまわりの家具は、祖父母から譲り受けたり、少しずつ買い足したり。人を家に招く回数が増え、ホームパーティーも楽しんだ。家のあちこちに傷や汚れがつき、それも含めてしだいに愛着が湧いてきて、10年めにしてようやく「自分の家になったなぁ」という感覚が芽生え始めている。

「庭で草取りをしていると、今もご近所さんが声をかけてくれるんです。隣のおばあちゃんが『カツ丼食べる?』と持ってきてくれたり、フルーツをくれたり。それを私がシロップ漬けや果実酒にしてお返ししてるんですよ」と、設計時にあえて低くした塀がご近所との“垣根”をとっ払い、パントリーにつくられた小窓をはさんで今日も笑い声が聞こえてくる。
 人や自然とゆるやかに関係を築きながら、2人は暮らしている。テラスから届くやわらかい光と小鳥たちのさえずりが、生活を豊かに満たしていた。

(2010.12竣工)

撮影 : 原田教正
取材 : 原田菜央