「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし
時を経て、趣のある家 07
山田邸:茅ヶ崎の海と街に魅せられて
他県に暮らしていた山田さん夫妻が、家を建てることにしたきっかけは、茅ヶ崎という街。
「はじめてこの街を訪れたとき、雨が降っていたんですよね。それなのに、街も人もすごく明るい。太陽や海や風を常に感じながら暮らす、おおらかでゆるい雰囲気が気に入って、この街に住みたいと思いました」
早朝、スマートフォンで波の情報をキャッチしたら、サーフボードとともに自転車で海岸へ。ときには愛犬のカレン(名前は著名サーファーから!)もいっしょ。玄関を入るとサーフボードを立て掛けるラック、濡れた足のまま歩いても気にならないタイルの床、アウトドア用品をたっぷりしまえて、ガレージから直接アクセスできるストレージ――。そんな住まいの要望を、ごく自然に理解してくれたのが技拓だった。
「でもね、基本的には僕、インドアなんだと思います」と夫の哲也さんは笑う。
新築時には「シンプルな箱を」とリクエストし、10年かけて少しずつふたりの好きなものを重ね合わせて、「外に出るのが億劫になる」ほど心地よい場所となったこの住まい。2階のLDKには、年とともに鮮やかな色彩が増えていったという。壁のアートは、昔、近所に住んでいたアーティスト志望の女の子や、妻の朋美さんの父親が駐在していたメキシコの画家の作品など。ごく最近、哲也さんがDIYでタンジェリンオレンジに仕上げたペイント壁も効いている。
さらにこの空間を包み込むのは、洋楽レコードのどこか懐かしく丸みのある音色。ジャケットから黒盤をとり出し、プレーヤーにセットして針を落とす。デジタルミュージックなら不要のそんな“作業”も、音楽鑑賞の一部。山田家にとって、音楽は欠かせないものになっている。
「1年めより2年め、5年めより10年めのこの家が好きですね。たとえ床や壁に傷がついても、そのまま味になるのがわが家の魅力。すべてを受け入れてくれる懐の深さがあるんです」
ゆったりと時が流れるおおらかなこの家は、次の10年へ向けて歩み始めたところ。ふたりが魅せられた茅ヶ崎の街に、すっかり溶け込んでいる。
(2010.12竣工)
撮影:市原慶子
取材:志賀朝子