外部取材

no.4 急須の里を訪ねて 2/2

急須という道具を考える 「南景製陶園」 

美味しいお茶に、授かれますように

 湯を沸かし、煎茶葉はスプーンに山盛りひとざし、急須にいれる。湯冷ましに湯を沸かし、煎茶葉はスプーンに山盛りひとざし、急須にいれる。湯冷ましに熱い湯を分け、頭を空っぽに待つこと約3分。ほどよく冷めたら湯を急須に移し、じっと心鎮めて1分少々。お茶を注ぐときは、ゆっくり傾け、最後の一滴まで注ぎ切ると、旨味はぐっと引きたつ。茶葉によっても適温や抽出時間は変わるが、家でもできる、美味しいお茶の淹れ方だ。湯を冷ますのは、使う湯呑みに分けるでもよい。

 「煎茶は、沸騰したてのお湯で淹れると渋みが増します。3分ほどかけて、70度前後まで冷ますと見違えるほど味は変わります。2煎目からは熱いお湯でそのまま淹れても大丈夫ですよ。とは言っても、茶葉によりクセは異なるので、浮気せずにひとつの茶葉とお付き合いするのが大切です。」熱心に日本茶の勉強をした礼さんは、工場の向かいにある870(ハナレ)では、ときどき、お茶菓子とともに南景製陶園の急須でお茶を味あわせてくれる。

 「昔は、小さな急須に手もみの茶葉を入れて、2煎、3煎とゆっくり風味を変えながら味わっていました。近頃は機械で細かく粉砕された茶葉が増え、簡単に淹れられるようになりました。ただ、味もすぐ出切ってしまうので一度に大量の湯を入れようと急須も大きくなったんです」と礼さん。南景窯では、取り回しに難しく、煎茶に適した湯温と蒸らし時間の調整がしずらい大きな急須は、敢えてつくらずにきた。一番大きなものでも少し小ぶりな3~4人用。昨年、はじめて大きな急須を手がけたのも、自社の急須づくりへの基本的な考えが広く知られるようになったからこそ。そこで改めて、幅広い茶葉や用途を見据えてつくられたものだった。道具といえど、便利一択で選べばお茶を美味しく味わう機会を自然と損ねてしまうのではないか。そんな想いがあったのかもしれない。

 南景製陶園の顔となった「黒くすべ」急須。ここにも南景窯の想いを垣間見ることができる。「はじめは、私が欲しいと思える急須がここにはなかったんです。」と照彦社長がいうように、最初は商品化を一切考えず、自分が欲しいと思えるものづくりを探求していった。量産製品では難しい、作家が施すような表現や質感を盛り込み、その結果として生まれたのが、この「黒くすべ」だったのだ。乾いたようでしっとりとした質感や、蒼や翠にもみえる黒色。そのたおやかな曲線からなる姿は、つい手を触れ、じっと見入ってしまう。

 いつもポケットにノートとペンを忍ばせる照彦社長。急に思い立っては何かを書きつけたり、ふと目を向けるとスケッチをしていたり。愛知県の工業大学を卒業後、一度は東京でサラリーマンをし、家業を継いだ。ほぼ全ての製品が独学による自身のデザインで、今も変わらず図面は手書き。試作しては細部を直しようやく一つの製品に辿りつくのだ。「急須は棚の奥にしまいがいちですが、私は、テーブルや見える場所に出しておけるものにしたい」と、淹れるだけではない役割が、そっと与えられているのだ。

 それがより、形となって現れたのが「Sencha」シリーズの急須だ。線と面からなる質素な形は、和にも洋にも寄らず。さきにも書いた大きな急須も、その容量ほどの大きさと重さを感じさせないのが、何よりもの特徴だ。土は、焼くことで2割ほど縮むと言われ、面を主とした直線的なつくりにはめっぽう弱い。自重で垂れたり歪んだり、形を保つのも一苦労。そうして生まれたこの形、国内やアムステルダムで開催された展示会では、煎茶に慣れない人々からの支持も集めたという。お茶離れ、なんて言葉が言われる昨今、お茶の魅力と道具の良し悪しを知ることで、その流れも、少しづつ変わり始めているのかもしれない。

 紐解けば、お茶は古くから、互いの心を通わす手段の一つとして重宝されてきた。かの茶人、千利休は、「手始めには自身の心を厳しく見つめ、嘘偽りや見栄を排し、謙虚であるがままの姿勢を保つこと(意訳)」と美味しいお茶に授かる心構えを説いている。四季や風土に触れ、日本人が連綿と紡いだ想いをはせながら、お茶の時間と、道具を使う喜びを、感じて欲しいもの。
 「急須のお手入れは、洗剤ではなくお湯ですすぐだけで、大丈夫ですよ」と最後に礼さん。みなさまも、どうか美味しいお茶に、授かれますように。

 Sencha急須 
上:Sencha320 2~3人用 満水230cc (共茶こし)  黒煉 ¥7,700 / 白煉 ¥8,030
左:Sencha690 2~5人用 満水690cc (共茶こし)黒煉 ¥10,000 / 白煉 ¥11,000
右:Sencha150 1~2人用 満水150cc (共茶こし)黒煉 ¥5,940 / 白煉 ¥6,270

お茶を楽しむ その他の道具

南景窯では茶托や湯冷まし、碗(湯のみ)や皿なども作っています。
詳細はオンラインストアまで

碗 円柱・円錐 
角皿
碗 白貫入・墨貫入