「技拓」で住み継ぐ、四季を味わう暮らし

時を経て、趣のある家 08

武田邸:まわりの自然に溶け込むように住む

 玄関から入ると、ひと際目を引くリビングの窓。外に広がる山々は、春にはヤマザクラが白い花を咲かせ、夏はこんもりと緑が広がり、秋から冬は茜色の夕焼けが枯れ木を染めるのが見渡せる。
「この景色をひと目で気に入って、ここに住みたい!とすぐに決めました。駅から遠くて不便なのと、見たこともないような大きな虫に出会うこともありますが、家にいながら季節の変化を感じられるし、この景色は何ものにも代えがたい。今も惚れ込んでいます」
 大きな窓に加え、天井が高く、仕切りの少ないゆったりとした空間にはおおらかな雰囲気があり、「帰るたびに、いらっしゃいと迎えられている気がするんですよね」と育子さんが笑う。

 次女が生まれてすぐから5年間のアメリカ暮らしや夫・泰明さんの単身赴任の期間を経て、自然あふれる鎌倉山に住み始めて8年。長女の中学入学を機に「住むなら鎌倉」と家探しを始め、さまざまな土地や物件を見た末、この場所にたどり着く。技拓の「時が経つごとに趣が増す家を建てる」という考えに惹かれ、また選んだ土地から近かったのに縁を感じて、依頼することを決めた。

「初めて家に入ったとき、木の香りがして、アメリカ駐在中に住んでいた木造の家を思い出してうれしくなりました。開放的で、壁や床、ドアやブラインドも全部白だったその家が大好きで、随所に要素をとり入れたり、スイッチカバーやドアノブ、照明器具はほぼアメリカ製に。憧れだった外壁のシングルサイディングは、周辺の環境にもなじんでいるし、見るたびに喜びが込み上げます」

 鎌倉は山と海に囲まれた土地ゆえ、湿気に悩まされることも多いが、壁は機密性にすぐれたドライウォールを選び、窓を二重窓にしたことで梅雨の時期も快適で、機能性の高さにも驚き、住めば住むほどそのよさを実感しているという。

 晴れた休日、ボート歴30年という泰明さんは、ボートとともに近くの海へ。その間、薬膳料理家の育子さんは季節の食材を使って昼食をつくり、子どもたちは思い思いにくつろいで、愛犬のぼたんは窓際でのんびりひなたぼっこ。多少の不便をはるかに上まわる豊かさが、ここにはあるのだ。

(2012.11竣工)

撮影:安川結子
取材:増田綾子