バックナンバー

『住む人』第1号より 技拓が考える、住まいのこと。

鎌倉駅からバスに乗り、長谷を抜け急な坂道を右に左に登って行く。道の両側を新緑に囲まれ、ときどき海が見える。遠ざかる街の喧騒を背に、たどり着いた鎌倉山のバス停を降りると、すぐそばに技拓のオフィスがある。一見すると、会社というより誰かの家のよう。

藤沢市の鵠沼で創業した技拓は、片瀬山、鎌倉山と移りながら、湘南・鎌倉・葉山などのエリアを中心に数多くの注文住宅を手がけてきた小さなホームビルダーだ。都内や関東近郊の地にもいくつもの家を築いてきた。外観に米杉を用いたその独特な佇まいは、この辺りでは馴染み深い街の景色のひとつになっている。

「どうも〜、いらっしゃい」と綺麗な声色で迎えてくれたのは、社長の白鳥ゆり子さん。「いいでしょう。家みたいで」その言葉の通り、オフィスと言いつつ間取りは家そのもの。2階にがお風呂もついている。一つ屋根の下、思いを巡らせるような表情で自分の仕事に打ち込む社員さんたちの姿が目に留まる。

「私たちは、たくさん建てることよりも一軒一軒の家づくりを大切に、お施主さんになる方の日常や暮らし、仕事や家族についても想像や思いを巡らせながら建てるのがいいのよね」と白鳥さん。技拓は、 創業時から今も変わらず「時を経てさらに趣のでる家づくり」を合言葉に、家と人がともに日々を積み重ね、育っていことを大切に家づくりに励んできた。

言い換えれば、家は建ったその時はまだ未完成。住まう人が毎日暮らしながら、よりよい家との関わりを考え、時には手を加えてもいい。技拓は、家を単なる根職の箱とせず、人生の変化とともに、次第に完成形に近づいてゆくキャンバスのようにと考えている。「暮らしを考えると、自然と家のことも考えるようになります。その逆も然りで、技拓の家って長く住み続けることで見えてくることがいっぱいあるのよね。そうやって愛着も湧いてくるでしょう。」とゆり子さん。

木をふんだんに使った家は、内に外に経年による様々な変化が生じる。外壁は雨風や陽に照らされて深い色合いに表情を変え、内側の空間には、様々な痕跡とともに優しい風合いが生まれていく。そこに宿る人生と暮らしの記憶は、すぐに心と体で体感することができる。それこそが趣であり、住む人の面影ではないだろうか。いい暮らしには、いつも人生に寄り添ういい家がある。技拓はその家を、今日も一軒ずつ丁寧に建てている。

(住む人 Vol.01 2016年発行よりテキスト一部抜粋・再編集・加筆修正・未掲載写真を含む)

編集後記
―――
技拓にとっての「家」は、そこに住む人の人生とその記憶によって彩られているのではないかと、振り返るたびに思う。木の温もりや経年による変化という特性を味方に、いい意味で、すこし曖昧な余白がところどころに配された独特な空間設計は、派手過ぎず、洗練され過ぎず、ちょうどいい塩梅にできている。その「ちょうどいい」は、時代とともに少しづつ形を変えながらも、どこか普遍的な心地の良さを今も私たちに与えてくれているのではないだろうか。