インテリア

深澤直人のコタンチェア

CONDE HOUSE

悩みに悩んでようやく決めた家具は、新居の引き渡し日に間に合うはずもない。でも、一生ものだから選ぶ時間を惜しみたくはなかった。念願かなって新築したこの家に暮らしはじめて二週間、それはいよいよ我が家へとやってくる。手垢 のついた表現かもしれないけど、待ち時間のワクワク感たるや、まるで遠足の準備を楽しむ小学生のようだ(妻は少しあきれ顔だったけど)。特に一番時間をかけて選んだのが、ダイニングチェア。家族が集うダイニングの椅子だから、座り心地はとても重要だ。これに出会うまでに、何十種類の椅子 に腰をかけたかわからない。

何だか気になって近づいてみたそのチェアには「コタン」という名前がつけられていた。コタンとは、アイヌ語で「集落」を表す言葉だそう。その意味を教えてもらった瞬間、これは 北海道の大自然から生まれたのだろうと、自分にもなんとな く想像がついたし、聞けばやっぱり北海道産のタモ材を使っているという。ちょっとだけ調べてみると、自然の恩恵を受けて生きるアイヌは、動植物はもちろん、道具や家など万物 に神が宿ると信じている。そんな背景も助けてか、このコタ ンの細部にもまるで神が宿っているように感じたのだ。まず、丸棒を曲げた背もたれは、背中がフィットするよう一部が削られていて“あたり”がいい。の角度は素人ながらに秀逸だと感心させられた。膝裏の心地よさは、 おそらく座面よりほ んの少しだけ出っ張ったクッションのおかげだろう。パーツのかたちはほぼ「丸」に統一され、その姿は実にミニマル。

四脚注文して届いた段ボールはひとつ。理由はもちろんわかっている。そう、このダイニングチェアはスタッキングができるのだ。そこも選んだ理由のひとつ。とりあえず四脚だ けど、お客さん用を追加してもスペースをとらずに収納がで きるし、何よりスタッキングされたときの佇まいは、思わず 見惚れてしまうほどの美しさ。 何なら毎日スタッキングしてもいいくらいだ(おかげさまで現状その必要はない)。とにもかくにも、新しい住まいと新しい家具で、これからの人生がはじまる。この椅子も、 家族と同じように歳をとり、変化していくことだろう。ちょっと大げさかもしれないけど、このコタンというチェアの成長も見逃さないよう、愛情をもって接していきたい。

Size | W:560, D:495, H:700, SH:440(mm) Price | ¥45,000–(税抜)
Shop | http://yokohama.condehouse.co.jp/

提供:CONDE HOUSE
写真:原田 教正
文:中野 和香奈